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涉穀川3

2025-05-15 作者: 武家副王

  PS:明天改

  南北朝~室町期の戦爭と在地領主

  呉座勇一

  日本中世は「戦爭の時代」であり、中でも、全國的な統一政権が不在、ないしは機能不全を起こしていた時期には戦亂が相次いだ。戦後の中世史研究では、戦亂が集中的に発生した內亂期を、新興勢力の勃興によって既存の秩序が解體される社會の変革期と位置づけ、その歴史的意義を高く評価してきた。しかし、そこで展開された議論は、生産力の発展によって既存の生産関係との間に矛盾が生じ、階級闘爭が提起されるという唯物史観に依拠したものであり、必ずしも戦爭の実態を具體的に検討したものではなかった。

  しかし1980年代以降、戦爭そのものを分析対象とする研究視角が生まれた。川合康氏による鎌倉幕府荘郷地頭製の研究(『鎌倉幕府成立史の研究』)や、藤木久誌氏による一連の研究(『雑兵たちの戦場』『飢餓と戦爭の戦國を行く』ほか)など、「戦爭論」の諸成果は、治承?壽永の內亂や戦國時代の戦爭に対するイメージを一新した。

  南北朝內亂に関しても、近年、軍製論や「村の武力」論といった新しい観點から研究が進められ、その実像が明らかにされてきた。だが、その一方で、かつて熱心に論じられた「在地領主にとって、南北朝內亂とは何だったのか」という大テーマはやや埋冇してしまった印象を受ける。

  このような問題関心の移行は、「在地領主論」の提唱(『歴史評論』674の特集を參照)に見られるように、中世社會の展開を領主製の発展の歴史として論じる領主製論が見直されつつある研究狀況が一因と考えられる。けれども、領主製論がそのままの形では成り立たないにせよ、領主製論が重視した「在地領主にとっての南北朝內亂の意味」という問題意識じたいは継承されるべきではないだろうか。そこで本報告では、南北朝內亂という「戦爭」が、在地領主の結合形態(家、一揆)にどのような影響を與えたのか、という“古くて新しい問題”を改めて考察してみたい。

  要するに本報告は、「戦爭論」と「在地領主論」という二つの新動向に學びつつ、獨自の主張を示そうと誌すものである。具體的には、以下の三つの課題に取り組むつもりである。

  第一に、南北朝期の在地領主の結合形態を、鎌倉後期との段階差に著目して論じることである。近年の在地領主研究では、一門評定論や領主一揆論に代表されるように(小林一嶽『日本中世の一揆と戦爭』、田中大喜『中世武士団構造の研究』)、鎌倉後期から南北朝期への連続性を重視する傾向が強い。なぜなら、こうした研究は、1970年代以降の在地法?在地裁判研究の延長上に位置しているからである。日常的な相論の解決のための法?裁判、恒常的に機能する地域支配権力としての性格に留意して在地領主結合の展開過程を把握しようとすると、南北朝內亂の畫期性は見過ごされがちである。鎌倉後期の段階で、外敵から自己の所領?所職を守るためのシステムを在地領主層が有していたことは間違いないが、南北朝の「戦爭」という未曾有の非常事態を前にして、彼らは従來と異なる対応を迫られたはずである。小林氏らの研究を踏まえた上で、この相違點を明らかにしたい。

  第二に、國人一揆研究の刷新である。言うまでもなく當該分野の通説的見解は、今なお勝俁鎮夫氏の「平和」団體論(『戦國法成立史論』)である。これは、國人一揆を、自力救済否定を通じて領主間紛爭を解決するための在地領主連合と評価する議論である。この議論は戦國大名、更には近世の統一権力に連なる性質を地域権力たる國人一揆の中に見出すという誌向性を有する。このため論理的要請として、國人一揆の「上部権力の保証を必要としない、それと無関係な私的な自立権力」としての性格が前景化されるのである。

  この結果、國人一揆研究には、近年活況を呈する幕府軍製研究(高橋典幸『鎌倉幕府軍製と禦家人製』など)の成果が十分に採り入れられていない。本報告では國人一揆=〈領主の一揆〉を「平和」団體ではなく、上部権力の「戦爭」遂行に協力する危機管理のシステムとして捉えることで、「地域社會の平和の維持」に留まらない一揆のダイナミズムの一端に迫りたい。

  第三に、室町期研究との接點を探ることである。最近の室町期研究の進展は目覚ましいものがある。特に「戦爭論」の視座からは、吉田賢司氏による一連の研究成果(『室町幕府軍製の構造と展開』)が重要と考える。吉田氏は、一般に室町幕府の安定期とされてきた足利義持?義教期に勃発した地域紛爭と、それに対応した幕府の軍製改革を詳細に検証し、その全體像を解明した。本報告の問題関心に引き付けるならば、吉田氏の研究は、いわば「室町の戦爭」の具體相を提示したものである。だが「室町の戦爭」のイメージは、南北朝內亂を考察の出発點とすることで、より明確な像を結ぶのではないか。15世紀の前半期は遠國地域で紛爭が多発する一方で畿內近國では室町殿を脅かすような戦爭が起きなかった時期である。南北朝內亂をくぐり抜けた先に出現した、「戦爭」と「平和」が背中合わせになった時代の特質を展望してみたい。

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